ドイツ反G8行動報告 ── 次は洞爺湖で会いましょう!
栗原康

はじめに

「ドイツG8サミットで暴動」。2007年6月のことになるが、こんな記事を見かけた人がいるかもしれない。あるいは、テレビやインターネットで、黒服の若者が投石をしているシーン、車が炎上しているシーンを見たという人がいるかもしれない。次回2008年のサミットは、日本の北海道洞爺湖町で開催されることもあり、興味を覚えたという人もいるのではないだろうか。
 だが実際のところ、ドイツ現地は多くのマスコミが報道していた「暴動」とは様子が異なっていた。私自身、今回のドイツの反G8運動に参加したのだが、「暴動」と報じられた出来事は危険というよりも魅力にみちたものであった。

8万人がサミットに抗議、警察が「暴動」を挑発

「暴動」が大々的に報じられたのは、2007年6月2日。この日は、ドイツG8サミットの開催地、ハイリゲンダムに隣接するロストック市で、サミットに反対する諸団体の統一デモが組まれていた。参加人数はおよそ8万人、そのうち約2割はメディアが「暴徒」と報じた黒服の若者であった。
 
騒ぎとなったのは、デモの解散地点となった広場付近。デモの後、広場ではNGO団体が主催する集会とコンサートが開かれていた。当初、集会は予定どおりに行われていたが、突然武装した警官隊が広場を取り囲み、参加者に挑発をはじめた。
 デモ参加者はこれに抗議し、そこから警官隊との小競り合いがはじまった。車両1台が燃やされると、警察はそれに乗じて放水車を導入し、参加者に放水を行ってきた。そして、警官隊は広場のなかに侵入し、集会の中断を告げてきた。これに対して、黒服の若者を中心とする大勢の人びとが、警官隊を押しもどそうと立ちむかった。
 黒服の若者といっても、その多くは両手をあげ、「ハウ、アップ!」(ドイツ語で「出て行け」の意味)と叫びながら警官隊と対峙し、侵入を防ごうとしていただけである。だが、こうした平和的な抗議者に対してさえ、警官は容赦なく催涙スプレーを浴びせかけ、放水を行ってきた。なかには、警察の横暴に投石で応じる人びともいた。彼らは周辺の道路を打ち砕いて、ブロックを警官隊に投げつけた。
 
興味深かったのは、平和的な人びともふくめて、抗議者全員がお互いをかばいあっていたことである。警官は投石した人びとを捕まえようと追いかけてくる。だが、警官が走ってくると、黒服の若者は全員で逃げる。警官は、誰が投石したのか同じ黒服であるため見分けがつかない。若者たちは同じ黒服を着ることで仲間をかばい、それぞれの抗議スタイルの違いを認めながら、ともに異議を申立てたのであった。
 数万の人びとが一体となって、暴力的な警官や、そんな警官に守られなければ開催できないサミットに怒りを顕わにしたのである。

サミット会場への道路を封鎖

その後もサミット閉幕まで、連日、現地では抗議行動や対抗フォーラムが行われた。
 6月3日から5日までは、「農業のための行動日」、「移民のための行動日」、「軍事主義に対抗する行動日」といったように、テーマ別の行動日が設けられており、数千人規模のデモが行われた。5日から7日までは、「オルタナティブ・サミット」と呼ばれる130団体からなる対抗フォーラムが開かれ、サミットへの抗議の声があげられた。
 
サミットの開催日の6日・7日には、「ブロックG8連合」「スターマーチ連合」のような非常に幅広いネットワークが組まれ、サミット会場付近で直接行動が行われた。この両日、裁判所命令で会場付近では一切の行動が禁止されていたが、会場へと政府関係者が通行する道路ポイントに座り込みをしかけるということもあって、行動は熱気を帯びることとなり、参加者は1万人を越えていた。
 しかし、封鎖ポイント前には警官隊が阻止線をはっていたため、参加者は山越えをすることになったのだが、それでも道路封鎖を貫徹したほどであった。2日間にわたる道路封鎖は、各国首脳の足止めこそできなかったものの、サミットに妨害を加え、明確な敵対性を表明することに成功したのである。

抗議行動を支えるインフラの充実

こうした行動の成功の裏には、それを支えるインフラの充実ということがあった。
 ロストック市には、廃校になった中学校を貸し切った「コンバージェンス・センター」が2ヵ所用意されていた。「コンバージェンス・センター」とは、直接行動に参加する人びとにとっての情報センターであり、300人ほど収容できる宿泊施設でもあった。そこには、バナーやプラカードを作る場所や道具も用意されていたし、食事をとることもできた。海外から参加した私も、こうした施設には大いに助けられた。
 
また、ハイリゲンダム周辺には、5000人から1万人が宿泊できるキャンプ地が3ヵ所も用意されていた。そこにはステージが設置されていて、毎夜コンサートが開かれた。朝まで騒いでいる人もいれば、一日中まったりと過ごしている人もいる。200人ほど入れる巨大なテントも設置されていて、そこでは集会や道路封鎖に向けたトレーニングなどが行われていた。トイレもあれば、シャワーも浴びられる。1〜2ユーロほどのカンパで食事をとることもでき、しかも誰でも食べることができるようにベジタリアンフードが提供された。
 このような気配りもふくめて、ときにまったり、ときに大騒ぎしたりするキャンプの共同生活は、参加者のうちに暗黙の連帯感を生み出していたのではないだろうか。

非中心的な組織化

キャンプ地は、直接行動のための討論の場にもなった。たとえば6日の行動では、道路封鎖を行うということは事前に決まっていたが、どの団体、個人が、どこでどんなパフォーマンスをとり、どんな警察対応をするのかについては、各々の自発性に委ねられていた。参加者は、「類縁アフィニティグループ」と呼ばれる5人から20人くらいの小グループで動いており、グループごとにどんな行動をとるのかについて合意形成が行われる。
 私は行動の前日にキャンプ地を訪れたが、夜になると無数の小グループが翌日の行動について議論を交わしている光景が見られた。そして、翌朝になると、各グループが全体で集まって、その日の行動予定を組み立てる。道路封鎖の最中にも、小グループごとの話し合いは頻繁に行われており、たとえば、座り込みのときに「どこそこのポイントには座り込みの人数が足りない」という情報が入ると、その度に、各グループがそこへ移動するかどうかを話しあっていた。
 
誰かが「上から」指示を出すわけではなく、小グループが自律的に動きながらも、それらが統一された行動へと繋がっていく。こうした「非中心的な組織化」は、もともとアナーキストの組織化の方法として知られるものである。先ほど、黒服の若者に触れたが、黒色とはアナーキストのシンボル色である。非常に広くとらえるならば、アナーキストとは「権威」に反抗する人びとのことである。彼らは自分たちの行動の方法を通じて、「権威」の象徴であるサミットに反対していた。
 サミットは、主要先進国とグローバル企業の利益を反映し、圧倒的な権力をもって世界中の人びとを従わせようとする「権威」の象徴である。こうした「権威」に対抗して、黒服の若者たちは行動の中から「上からの支配」のない新しい人間関係を作ろうとしていた。「非中心的な組織化」は、サミットに象徴される「権威」的な世界秩序への「オルタナティブ」の萌芽であった。ドイツでは、多くの若者がこうした行動理念に惹きつけられていたのではないだろうか。

おわりに ── 北海道洞爺湖G8サミットへ向けて

2008年、G8サミットの開催地は、日本の北海道洞爺湖である。日本でも、少しずつではあるが、各地でサミットに向けた取り組みがはじまっている。まだ、どんな運動が組まれるのかは分からない。だが、まちがいなく、サミットの期間中、洞爺湖周辺には、熱気と創造力に満ちあふれた空間が出現することになるだろう。
 どこからともなく人びとが湧きあがり、ウィットに富んだ行動を展開する。キャンプ地には無数のテントが張られ、ステージで音楽やイベントに酔いしれる。そうした行動は、きっとドイツと同じように、現在の世界秩序に対する「オルタナティブ」を感じさせてくれるに違いない。
 
 
 
<参考文献>

  • 矢部史郎「反G8サミット運動の現在」(上、下)『図書新聞』(2007年7月7日、14日号)
  • 平沢剛「G8サミット抗議運動に八万人が結集」『週刊金曜日』(2007年7月20日号)
  • 木下ちがや「〈経験〉の共有へ−2007年ドイツ反G8闘争に参加して−」(『市民の意見30』2007年8月1日号)
  • 大屋定晴「ロストック『社会フォーラム』の出現」『季刊 ピープルズ・プラン』(2007年夏、39号)
  • 仲田教人「ドイツ反G8運動と方法としてのアナーキズム」『未来』(2007年9月)
  • 成田圭祐「随感随筆ドイツ反G8」『アナキズム』(10号、2008年2月)
 
<リンク>

  • http://www.jca.apc.org/alt-g8/
    北海道洞爺湖G8サミットに疑問を抱く個人・団体からなる緩やかなネットワーク
  • http://a.sanpal.co.jp/no-g8/
    北海道洞爺湖G8サミットへの対抗アクションに向けた運動サイト
  • http://dissentnetzwerk.org/node/49
    オートノミスト、アナーキストの広範な国際ネットワーク
  • http://gipfelsoli.org/
    ドイツ反G8運動に関する情報サイト
  • http://g8-tv.org/
    ハイリゲンダム・サミットに向けて結成されたオルタナティブメディアの1つ。対抗アクションの映像が毎日インターネットで配信されていた。
 
栗原康(くりはら・やすし)

早稲田大学院生。研究テーマは、アナーキズム・労働運動。