私がレオンに会ったのは、イギリスに1年間滞在している際メンバーになっていた、London Coalition Against Poverty(以下LCAP)という団体でだった。若いアクティビストを中心に結成されたLCAPは、ロンドンでラディカルな反‐貧困運動を展開しており、直接行動を理念に福祉申請のサポートも行っていた。途方に暮れたレオンが連絡してきたこの団体で、私は彼の相談を担当することになったのだった。
スクウォッターの実態についてはイギリスでもほとんど知られておらず、公式の統計も存在しない。だが1975年からスクウォッターの相談に応じている Advisory Service for Squatters(以下ASS)(★3)の概算によると、イギリス全体でその数は2万5000人ほど、多くがロンドンなどの大都市に集中している。スクウォッターというと、オルタナティブな生活を求める若者がイメージされるのが一般的だが、ASSで長く相談活動をしているトニーによれば、実際にスクウォットしているのはこうした若者よりも、貧困のため、スクウォットする以外に住宅を手に入れる手段がないという人が多いのだという。スクウォットをライフスタイルの選択として捉えるのか、貧困の問題として捉えるのかは極めて政治的な問題で、日本の野宿者を取り巻く言説に近いものを感じる。
ロンドンで現在もっとも長くスクウォットされているRampARTというソーシャルセンター(★4)では、廃棄食品を集めてホームレスなどお腹が空いている人に配るFood Not Bombsという団体が調理を行っていたりもした。関心のある有志で修繕を加え、話し合いを重ねながら運営しているソーシャルセンターは、カラフルなアート、創意に満ちた活動、協働する技法など魅力的なアイディアであふれ、国家や巨大な資本に頼らない「もうひとつの世界」を足元から実現していく、まさに共同の実験場である。